議会改革白書
議会改革白書2011年版 どこまですすんだ!?議会改革
編著 廣瀬克哉・自治体議会改革フォーラム
生活社 2011年7月30日発行 本体3,500円 A4判 264ページ

4年間の到達点と新たなステージに向けての課題



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はじめに
 議会基本条例が誕生してから2回目の統一地方選が終わった。議会基本条例の制定数は、全自治体議会の1割を超え、議会改革が一部の突出した議会の特別な取り組みから、自治体改革の当たり前の取り組みへと変わりつつある。議会基本条例を活用した議会改革も、すでに自治体議会の一任期を上回る時間が経過し、改選後の議会にどのようにつないでいくかが問われる段階を迎えている。自治体議会改革フォーラムの立ち上げからも丸四年が経過し、一つ目の節目を迎えたと受け止めている。議会改革の次のステップに向かってあらためて改革の方向性を確認することが求められているのではないだろうか。

 このタイミングで、一部の自治体における首長対議会の対立が、首長主導の議会リコールの成立、首長主導の地域政党の登場とそのもとでの首長・議会関係の展開、地方自治法の抜本改正による自治体の基本制度の改革提案などに展開してきた。また、首長による意識的な議会の招集拒否や、専決処分の乱発、議決の違法性などを理由とする場合の再議に日数制限がないことの表面化などを受け、これまでの制度の「穴」をふさぐような地方自治法改正も検討されるに至っている。

 現行制度を前提として、まずはその制度本来の趣旨を実現しようと展開している議会改革と、首長対議会の劇場型の危機を契機に制度の枠組みそのものを変えていこうとする動きが、いま同時に並行して展開されている。その意味でもまた、議会改革は一つの節目を迎えている。

 『議会改革白書』として3年目となる本書では、第1章で現行の二元代表制度の下で積み重ねられてきた議会改革の事例を踏まえながら、次のステップについての考察を行っている。議会基本条例とその運用、施策評価を決算審査に生かす取り組み、予算の増額修正の実現、議員定数と報酬についての議会側からの論点提起など、それぞれに特徴的な取り組みである。また、市民の声を議会審議に生かすため、存在する制度をフルに活用した取り組みや、議会と市民、専門家の協力関係のもとで展開されている政策づくりなどを紹介する。議会改革は議会だけで取り組むべきものではなく、また、議会だけからしか着手できないものでもない。その具体例として、市民から議会を改革していくためのイニシアティブも取りあげた。

 第2章では、2010年に具体化した地方自治法改正、議会内閣制をめぐる議論を取りあげ、現行法を前提としない改革の課題について検討を行っている。特に議会内閣制については、賛否両方視点からの論考を収録し、多角的に検討することを意図した。

 また、本書の企画がほぼ固まった時期に東日本大震災が発生した。この未曾有の災害という事態に対して、自治体や議会はどう動いたのか。被災地を拠点とするブロック紙の現場からのレポートを寄せていただくことになった。本書の編集を終えようとする現時点では、まだ被災地では復興計画の策定に着手したばかりという段階にある。復興計画によって、まちの全体を設計し直すことを迫られている自治体もある。市民と議会を含めて、自治体はこの課題にどう向き合っていけば良いのだろうか。今後もこの課題には引き続き注目をし続けていきたい。

 自治体議会運営実態調査は、2010年実施分と2011年実施分の2年分を収録した。これまで白書の発行時期と、調査の実施時期の関係で、調査の実施からほぼ1年後に白書に掲載するというタイミングとなっていたが、年1回の調査の発表時期としてタイムリーとは言い難いものであった。本年より、議会改革白書の発行時期を夏に変更することによって、冬から春にかけて行う調査の結果を、あまり間を置かずに公刊できるように意図した。これにより、2007年から過去5回行われてきたこの調査の結果は、『議会改革白書』2009年版から2011版までの3冊に全て収録されたことになる。  資料編の議会基本条例については、昨年版まではすべてを全文収録する方針で編成していたが、分量的にそれが可能な数を超えてしまったことと、議会基本条例も定着してきて、ある程度パターンが出来上がってきたことから、特に特徴的で注目に値する条例に絞っての掲載に切り替えることとした。資料的価値は昨年版までと変わらないものであると考えているが、了解いただければ幸いである。

2011年7月 編者を代表して 廣瀬克哉

目 次
第1章 新たなステージを迎えた議会改革─これからのステップ  
問題提起 議会改革の到達点と今後の課題
  自治体議会改革フォーラム呼びかけ人代表 廣瀬 克哉
テーマ1 存在感のある議会をめざして 
Case1 ここまでできる! 議会基本条例
  御船町議会議長 岩田重成
Case2 施策の評価を次年度に活かす
  合志市議会議員 来海恵子
Case3 予算の増額修正を可決成立
  田川市議会議員 佐々木 允
Case4 活動・定数・報酬の根拠を市民に示せる議会へ
  会津若松市議会議長 田澤豊彦
テーマ2 市民と対話する議会へ 
Case1 議会の総意で執行部提案を修正
  所沢市議会議員 中村 太/福原浩昭/石本亮三
Case2 「政策サポーター」とともに政策提言を作成
  飯綱町議会議長 寺島 渉
テーマ3 市民と議員の条例づくり 
Case1 市町村初! 議員提案でストップ温暖化条例を制定
  嵐山町議会文教厚生委員会委員長 渋谷登美子
Case2 多様な市民参加で「子ども条例」を制定
  大分市議会政策研究会会長 阿部剛四郎         
テーマ4 市民がすすめる議会改革 
Case1 議会改革 市民からの問題提起
 まちだ市民情報センター代表 卯月慎一
Case2 市民が議会を編集する─ツールとしての『白書』
 川崎市議会を語る会代表世話人 吉井俊夫
 Case3 おかしいことは「おかしい」と言い続けよう
 川口市 議会基本条例を考える会代表 伊田昭三          
第2章 議会制度の転換点─ 2010 年の論点をめぐって  
テーマ1 地方自治法改正と議会 
地方自治法改正が自治体議会に問いかけるもの
  山梨学院大学教授 今村都南雄
テーマ2 首長の反乱と「議会内閣制」 
論点1 二元代表制による政治とは何か─名古屋市政を考察する
  三重大学教授 児玉克哉
論点2 自治体「議院内閣制」をめぐる論点─議会一元制への試論
  名古屋大学教授 後 房雄
論点3 議会内閣制の存立基盤の希薄性と新たな地域民主主義のソウゾウ
  山梨学院大学教授 江藤俊昭
特別寄稿 東日本大震災と地方議会 
住民の代表機関がしたこと、すべきこと
  河北新報社記者 矢野 奨
第3章 全国自治体議会運営実態調査 結果報告2010/2011  
全国自治体議会の運営に関する実態調査2010 調査結果概要
全国自治体議会の運営に関する実態調査2010 集計表
全国自治体議会の運営に関する実態調査2010 回答自治体一覧表
                 
全国自治体議会の運営に関する実態調査2011 調査結果概要
全国自治体議会の運営に関する実態調査2011 集計表
全国自治体議会の運営に関する実態調査2011 回答自治体一覧表         
資料編 議会基本条例の傾向と分析・条文集  
条文分析:2010年制定の議会基本条例に見る議会改革の動向
議会基本条例条文比較分析一覧表(2010年制定)別表
 長野 基 市民と議員の条例づくり交流会議運営委員
議会基本条例条文集